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コンサルタントは人気の高い職業の一つですが、コンサルティングスキル自体は特別なものではなくなりつつあります。さらに「コンサルティングの技術だけを磨こうとしても、思うような成長は望めない」と語るのは、経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEOの村岡さんです。ではコンサルタントを目指す学生は、キャリアの方向性をどのように定めていくべきなのでしょうか?
連載「コンサルタントの道」第16弾では、村岡さんが考える「真に価値あるコンサルタント像」や、経営者として大事にしている価値観などについてお話を聞きました。
目次
プロフィール
1.見据えるべきは技術の先にある。プロフェッショナルとしての目標
2.グローバルでのベンチャー投資から、事業運営まで。コンサルティング技術を活かして多様な事業を展開
3.会社のあらゆる局面を支える、一流のコンサルタントを育てる仕組み
4.依頼側になって初めて知った、コンサルティング業界の課題
5.大きな失敗から学んだ、プロフェッショナルとして大切なこと
6.会社選びの基準と一番こだわるべきポイント
7.仕事は人間力を高め、プロフェッショナルを目指すためのフィールド
プロフィール
村岡 隆史さん
共同経営者(パートナー)
代表取締役CEO
三和銀行にて、プロジェクトファイナンス業務、M&A業務に従事。モルガン・スタンレー証券を経て、産業再生機構に参画。IGPI設立後は、数多くの企業の構造改革や事業再生に関わる他、中国・アジア諸国でのM&A・投資、成長戦略立案プロジェクトを多数統括。INCJ社外取締役、新日本工機社外取締役、池貝社外取締役、元金融庁参与。東京大学農学部卒、UCLA 経営学修士(MBA)
見据えるべきは技術の先にある
プロフェッショナルとしての目標
コンサルティング会社に入って数年経つと、コンサルタントとしての技術はある程度身につきます。しかしその先にある「技術を使って何をするか」が大事な問いであり、本当の意味でコンサルタントとしてのチャレンジが始まります。それに気づかずにコンサルティングの技術だけを高めようと努力しても、思うような成長カーブは描けません。
なぜならそれは身につけた技術だけで、楽をして給与が高く居心地の良い環境に甘んじているに過ぎないからです。これからコンサルタントを目指す皆さんにはそうならないで欲しいというのが、私が一番伝えたいメッセージです。
そのためにはまず、自律的に物事に関わりながら成長していく意欲と、自分自身に対する規律を持っておくべきです。コンサルティングの技術があるのはもちろんですが、それ以上に自分自身で進化していける人がプロフェッショナルと呼ばれます。コンサルタントである以上、最終的には一流のプロフェッショナルを目指して欲しいと思います。
私はIGPIのCEO兼コンサルタントでありながら、複数の会社を経営しています。コンサルティングという技術を使って、コンサルティングのみならず会社経営もしていくというのが私の中での理想形であり一つの答えです。
コンサルティングはあくまで一つの技術なので、会社の戦略を考えたり、分析からいろんなヒントを導き出したりするわけですが、その中で「自分は将来何を成し遂げたいのか?」という自分なりの目標を具体的に見つけてもらえればと思います。
グローバルでのベンチャー投資から、事業運営まで。
コンサルティング技術を活かして多様な事業を展開
——IGPIの特徴はどのようなところにあるのでしょうか。
IGPIは投資、事業支援、AI・Big Dataの活用に向けた取り組み、さらには会社経営や事業運営まで、コンサルティングの他にも様々なことをやっています。よくコンサルティング会社だと言われますが、実際にはコンサルティング“も”している会社です。
もう少し具体的にお話しすると、IGPIが手がける領域はコンサルティングファームやPEファンドと一部で重なりますが、それ以外の部分が大きな割合を占めています。中堅・シニアから若手まで全員がコンサルティングの技術を使って会社経営をしたり、投資ビジネスをしたりできる、コンサルティングの技術を活かせる場をIGPIの中に作っていくことにこだわっている会社です。
——実際に取り組んでいる事業の中身についても、詳しく教えてください。
コンサルティング以外の事業について事例を紹介すると、国際協力銀行(JBIC)と共同で北欧でNordicNinjaというブランドでのベンチャー投資を手掛けており、北欧やバルト三国では一番大きなベンチャーキャピタルの一つになっています。
北欧でベンチャーキャピタルを始めた理由はいくつかありますが、一つは環境問題に対する考え方が世界で一番進んでいること。もう一つはテクノロジーの開発環境として優れていることが挙げられます。北欧は自動車を含めたモビリティにおいてシリコンバレーよりも先進的な取り組みをしていて、環境に配慮した自動運転やモビリティを実現するための技術開発が盛んです。
特にフィンランドは日本とすごく相性が良く、カルチャーにおいても親和性があります。フィンランドの人々はとても物静かでシャイですが、辛抱強く日本人に似ていることも北欧をビジネスの場として選んだ理由です。そこから環境問題に関するヒントや発想を得て、先進的なテクノロジーを日本に転換し、発展させていければと考えています。
また、すでにそうした技術を日本国内で試すことができる環境もあります。みちのりホールディングスという、東日本エリアの4つの県を中心に、バス、鉄道、宿泊施設などを運営する会社も経営しており、その一環として茨城県の日立市などでバスの自動運転のテスト走行にも取り組み始めました。
他にも、和歌山県にある南紀白浜空港の運営権を取得し、空港の経営にも取り組んでいます。もともとIGPIのコンサルタントだったメンバーが運営会社の社長に就任し、現地でコンサルティングスキルを活かした会社経営をおこなっており、コンサルティング以外にIGPIが手がける事業は多岐にわたります。
会社のあらゆる局面を支える、
一流のコンサルタントを育てる仕組み
——コンサルタントが事業経営を経験することで、どんなメリットがあるのでしょうか。
下の図が示しているのは、会社のライフサイクルです。会社を創業して、成長させ、市場の中で競争が発生する。そうすると優勝劣敗、すなわち勝ち続ける会社と負ける会社が出てきます。負けた会社がどうなるかというと、今度は再編・淘汰されて廃業、もしくは整理から再生に至るケースもあります。
IGPIの仕事ではまさに、創業から成長、競争、再編、場合によっては廃業など、会社ライフサイクルのあらゆる局面において、経営者の相談相手としてアドバイスを求められます。例えるなら、経営者にとっての総合病院のような役割を担っています。困ったときに最初に相談を受けて、外科手術をしたり内科手術をしたり、場合によって漢方を処方することもあれば、リハビリをすることもある。
その時にただ経営者の悩みを聞き、分析をしてアドバイスをするだけでは一流とは言えません。コンサルティングだけではなく自分たちで経営もできる。それこそが一流のコンサルタントであり、プロフェッショナルであると私は考えています。一流のプロフェッショナルとは、自らやってみせることができる人だと考えているので、実際に経営ができることは大きなアドバンテージです。
——一流のコンサルタントを育てるための、仕組みや取り組みはありますか?
若いうちから一つの業界だけに偏らないように、3ヶ月〜6ヶ月で次々と新しい分野に取り組めるようにしています。自動車業界をやったら、今度は外食業界、次はベンチャーなど領域を変えながら意識的に無茶振りをする。なぜなら、知識をたくさん覚えるのではなく自分で考えることをしないと、コンサルタントとしては成果を出せないからです。
新しいテーマを与えられてどれだけ短期間でキャッチアップできるか。自分の頭で考えて、お客様に対してアドバイスできるか。これこそが一流のプロフェッショナルとして活躍するために重要なことです。
また、2021年には日本共創プラットフォームという子会社を立ち上げ、自分たちで経営や投資をおこなう実践の場を設けました。実際に会社を経営する機会をさらに増やしていく取り組みも進めています。
依頼側になって初めて知った、
コンサルティング業界の課題
——村岡さんご自身のキャリアや、IGPI設立の背景についてもお聞かせください。
私は現在までに4つの会社を経験しています。新卒で日本の大企業を象徴するような銀行からキャリアをスタートさせ、その後アメリカの権化のようなモルガン・スタンレーを経験。産業再生機構という国が作った官の組織を経て、初めはベンチャーだったIGPIを立ち上げ、現在はそのCEOをしています。
大企業、外資系、官の組織、ベンチャーと一通りの経験を振り返ってみると、どれも自分の財産になっていると思います。なかでもキャリアの大きな転換点となったのは、15年ほど身を置いた金融業界を飛び出し、30代半ばで入った産業再生機構での経験です。
そこで私は初めて社長という役割を担いました。産業再生機構が会社を支援する時に、次の社長を見つけるまでのつなぎ役を命じられたのですが、それまで社長経験はなく、ましてや上場企業の社長として何をやればいいか全くわからない状況でした。
そこで自分が投資銀行や外資系金融、コンサルティングファームの人を雇う立場になってみて初めて、その使い勝手の悪さに気づきました。
世界に冠たる投資銀行にお願いしたとしても、当然ながら財務のことしかやってくれません。ファイナンスの専門家でありながら、ビジネスの戦略には一切口を挟まない。今度は外資系の戦略ファームにいって戦略のコンサルティングをお願いすると、彼らは財務の専門家ではないので「財務のことは自分で考えてください」と言われる。
財務のことは投資銀行、戦略のことは戦略ファーム、法律は弁護士、会計のことは会計士というように、結局は全て異なる専門家に相談することになり、挙げ句の果てにそこで出てくるアドバイスはばらばらです。実際にこうした痒いところに手が届かない経験をしたことも、IGPIを創った背景の一つです。
大きな失敗から学んだ、
プロフェッショナルとして大切なこと
——これまでの経験の中で、一番学びになった失敗について教えてください。
多くの失敗をしていますが、一番大きな失敗はIGPIを設立して2年程経った時に手がけた投資案件です。15年間の歴史の中でも一番の失敗であり、実は最大の学びにもなっています。
当時はリーマンショックの直後で、日本企業の多くが経営的に大変な時期でした。その中で担当するお客様の一つに不動産ファンドを運営する会社がありました。そこの経営をなんとかして救うというのがわたしの使命だったのですが、日本国内の投資家が見つからず、救世主的に現れたのが中国の投資家でした。
今から12〜13年前なので、中国の会社が日本の上場企業に出資や投資をするという前例がなく、史上初めてのことを成し遂げることにやりがいを感じてチャレンジしました。しかし結果的にその取引は成立せず、担当する不動産ファンドは倒産。さらに、IGPIもそれに関連して投資で損を出し、一部のマスコミから厳しい批判を受けるなど、相当辛い思いをしました。
当時を振り返ると、少し雲行きがあやしくなった時に、もっと早い段階で取引をストップすべきところを、自分ではその判断ができずに遅れてしまった。つまり自分自身が当事者となったときに、状況を客観的に見られていなかったということです。この失敗から、最悪な状態に陥る前に撤退することも選択肢の一つだという、プロフェッショナルとして非常に大切な教訓を学びました。
客観的な立場からお客様に対してアドバイスをするコンサルタントは当事者意識が欠けがちですが、一方で自分が投資や経営をする立場になると、今度は客観性を持たなくてはいけません。ただ自分ひとりで主観と客観をうまく担保するのは難しいのも事実です。
私の場合は、そのとき一緒にやっていた仲間から「これはストップするべきだ」と、冷静に忠告があったことで救われました。一人で大きな投資判断をするのではなく、共同で決めていく仕組みになっていたおかげで、IGPIは致命傷を負わずに済みました。
会社選びの基準と
一番こだわるべきポイント
——もし、いま学生の立場だとしたら、これからどのような会社を選ぶと思いますか?
私がこれから就職活動をするとしたら、次の4つを意識した会社選びをすると思います。1つ目は、いまがピークの会社ではなく、これからピークを迎える会社を探すことです。個人の成長と会社の成長は重なる部分が大きいので、これから伸びてピークを迎えるような組織に身を置けば、少なからず自分自身の成長につながります。
2つ目は、中数精鋭です。少数精鋭だと相性の問題がありますし、大きな会社では社長や経営陣から一人ひとりの顔や個性が見えにくいので、私は中数精鋭をおすすめしています。一人ひとりの強みや弱み、個性などを踏まえてどういう風に育てていったらいいか。会社としてそれぞれに必要な経験を提供できるからです。
3つ目は現場経験で、これは現場を経験しながら理論が学べる環境のことです。特に、若いうちに現場を経験することが大事です。私も銀行時代に支店で現場経験をしました。日本の中小企業の経営がどうなっているのか、日本の金融の最前線がどういう仕組みになっているのかを肌で感じる良い機会でした。
そして、最後が給与です。なにか物事を成し遂げるためには、自由になるためのお金が必要です。ただ自由になったうえで、お金を使って何をするかというのが本当の問いだと思います。お金以上に自分の成長が感じられるということは、つまり自分の情熱とか、好きなことが重なっているということなので、そこに一番こだわってもらったほうがいいと思います。
ほとんどの人は新卒でどこかの会社に就職すると思いますが、みなさんの時代は兼業が自由になり、当たり前になっていくでしょう。それこそ転職をしないで、一度に複数の会社に携わることもあるかもしれません。最初はどこかの会社に所属して社会人の基礎を身につけた方が良いと思いますが、その先の選択肢はどんどん分かれていきます。
先ほどお話しした通り、IGPIは社内でそういう経験が積めるように様々な工夫をしながらやっている会社です。コンサルティング馬鹿にならないためにも、いくつもの興味を同時並行で持つことを意識していくと、最初のうちは大変でも、どこかでそれが正解につながっていくでしょう。
仕事は人間力を高め、
プロフェッショナルを目指すためのフィールド
——最後に、村岡さんから学生のみなさんに伝えたいことはありますか?
私がコンサルタントをしていて一番良かったと思うプロジェクトを一つあげると、ある経営者の方から相談された遺言を残すお手伝いの仕事です。それは人間として、コンサルタントとして私のことを信頼してくれた証だと思っています。
莫大な財産をどう分配すれば良いかを考えるには、人間力や人間洞察力が試されます。当然、相続税など税金の知識やその会社への深い理解、経営についてもわかっていなくてはいけません。
それも含めて私のことを信頼し、任せてもらえたことは非常に嬉しい出来事でした。コンサルタントのスキルだけではなく、自分自身を信頼して指名してもらう。こうした経験こそ、プロフェッショナルとして仕事をする醍醐味です。
「なんのために生きるのか」「なにを目指して生きるのか」を突き詰めて考えると、結局は自分を高めて人間として成長していくことに尽きると思います。仕事をしていると理不尽なことや辛いこと、自分の思うようにならないことは数え切れないほどあります。ただそれこそが自分の成長につながるので、仕事は自分を高めていくための重要なフィールドだと考えています。
せっかくコンサルティング業界に興味をもって飛び込むのであれば、ぜひ人間そのものを評価される一流のプロフェッショナルを目指して欲しいですね。