社会課題に関心がある学生の皆さんは「どんな立場で、いかに社会課題にアプローチするか」具体的にイメージできていますか? 連載「コンサルタントの道」第23弾では、NRIにて地方創生や環境分野に対して官民連携や業界横断でアプローチしている由藤さんと雪野さんにインタビュー。従来型の戦略・実行支援だけではない、コンサル・シンクタンクとして「NRIだからできる社会課題解決型コンサル(コンサル5.0)」を紐解きます。 |
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目次
プロフィール
コンサルタントになった理由、官僚になった理由
官僚を経てNRIに入社した理由
地方創生の取り組み事例~山形県鶴岡市~
福島県での国の実証実験プロジェクト
なぜNRIでは社会課題解決に注力できるのか?
プロフィール
由藤 聖利香さん
株式会社野村総合研究所
コンサルティング事業本部 採用担当
京都大学大学院 地球環境学舎を修了後、2018年に新卒でNRIに入社。サステナビリティや地方創生領域の経験が豊富。主に環境・エネルギー業界を軸に戦略策定・実行支援系プロジェクトを担当。中でも地域資源・経済循環の推進やバイオマス資源の利活用といったテーマのプロジェクトに携わり、論文執筆や外部講演といった対外発信活動にも注力。2022年より、コンサルティング事業本部の採用担当として活動中。趣味はキャンプ・酒造巡り。
雪野 裕介さん
株式会社野村総合研究所
社会システムコンサルティング部 シニアコンサルタント
大阪大学工学部を卒業後、2013年に新卒で農林水産省に入省。バイオマス資源の有効活用等に関する政策の立案・実行を担当。2017年から環境省へ出向し、海洋プラスチックごみ問題の解決に向けた政策を担当。その後、2019年にNRIへ入社。主に官公庁向けの環境分野のプロジェクトを担当し、特にプラスチックの代替素材の普及に関するテーマでは対外発信活動も実施。2022年度には、福島第一原子力発電所における事故後の除染で生じた土壌の再生利用に関する実証事業にも参画。趣味はランニング。
コンサルタントになった理由、官僚になった理由
──はじめに、お二人の就職活動について教えてください。当時から社会課題への関心が高かったのでしょうか?
由藤 大学では環境系を専攻し、大学院では水の再利用について研究していました。私は地方出身なこともあり、ぼんやりと地域の産業振興や環境分野に興味がありましたが、「具体的にどういった仕事があるのか」まではイメージできていませんでした。また環境保全などの社会課題に対して、生涯の仕事として取り組みたいと当時から思っていたわけではありません。
ただ、社会課題を解決するには一企業・一主体の立場でできることに限界があるだろうと思っていました。例えば地域の産業振興と言っても、大規模開発をして仕事を増やせばいいわけではなく、環境や自然を残しながら産業を盛り上げていくような仕事がしたいと考えたのです。
そして「官民両方にアプローチできるコンサルタント」の仕事が社会に対して一番インパクトを与えられるのではないかと考え、就職活動ではコンサルティングファームを中心に選考を受けました。
官公庁も選択肢にありましたが、コンサルの方が現場に沿った仕事ができることと、関わる業種の幅広さも魅力でした。当時は何を専門にするかイメージが湧いていなかったため、まずは様々なテーマに触れた上で、自分の専門性を探りながら磨きたいと考えたのです。
そのためコンサルでも領域特化ではなく、国内の企業や行政といった多様な方々と関われるファームが自分に合っていると考え、NRIに入社しました。
雪野 大学は理系で、セルロースと呼ばれる植物資源の有効利用について研究していました。そのような背景もあり、環境問題に漠然とした興味はありましたが、環境分野に限らず幅広く「何か社会を良くするような仕事に就きたい」と思っていました。
就活開始当初は民間企業も見ていましたが、国家公務員の説明会で聞いた「制度設計から広く社会を良くできること」に魅力を感じ、官僚に絞りました。中でも農林水産省を選んだ理由は、環境と食を通じて生活を豊かにすることで社会を良くしたいと考えたからでした。
官僚を経てNRIに入社した理由
──雪野さんは官僚としてどのような経験をされましたか? またNRIに転職した理由についても教えてください。
雪野 農林水産省に4年間、その後出向の形で環境省に2年間在籍しました。農林水産省では、研究開発の支援やバイオマス資源の有効活用に関する政策立案を担当しました。事業者を支援する施策を考えて予算を財務省に要求し、予算確保後は補助金事業の公募、交付まで一連の流れを経験しました。
研究開発の支援では、異分野融合研究という農林水産省として初の取り組みで、事業規模は数十億円もありました。日本経済新聞の一面に載った時には、省庁だからできる国家的なプロジェクトに携われている実感とやりがいを感じましたね。
その一方で、日々の業務の中では「自分自身の仕事が社会を良くできているのだろうか」というモヤモヤとした想いも抱いていました。ピラミッド組織の省庁において私のところには、一見目的が分からない業務が下りてくることもありました。この作業が社会をどう良くしているのかがよく見えないまま、忙しさのあまり指示通りにこなすことに追われて日々が過ぎていくことに悶々としていたのです。
そんな時に出会ったNRIには「現地現物」と言って現場を大事にする姿勢があり、さらに若手のうちから裁量を持って挑戦できる環境があると聞いて、自分の想いをより実現できそうだと感じて入社を決意しました。
外資系のファームも受けましたが、若手のうちは資料作成といった役割が中心のファームが多いのに対して、NRIでは若手もお客様の前に立って説明をしたり、課題を一緒に探ったりといった役割を求められることに魅力を感じました。
──省庁からNRIに転職してみて、どんなことを感じましたか?
雪野 驚きの連続でした(笑)。入社前に聞いていた以上に組織はフラットですし、2~3年目の若手がリーダーを担うプロジェクトに年配のコンサルタントがメンバーとして入ったり、お客様との打合せでは若手も発言を求められたりと、想像以上に省庁とは異なるカルチャーを体感してきました。
──官僚としてのご経験は、NRIでどのように活きていますか?
雪野 NRIで私は主に官公庁のお客様の案件を担当していますが、私は官公庁側の意思決定プロセスなどの事情をある程度理解しているので、同じ目線で議論できることが自分の強みだと思っています。省庁・官公庁に向けて何か提案をする際には、いつ・どの部署のどの役職の人にコンタクトするのがいいかをNRI社内で相談を受けることもあります。
仮に私のように省庁での経験がなくても、NRIから省庁や企業への出向の機会があります。出向先によって事情が違うので、その経験をコンサルタントとしての仕事に活かすことができます。
地方創生の取り組み事例~山形県鶴岡市~
──近年NRIが掲げ、お二人も複数経験されている「コンサル5.0」について教えてください。
由藤 「コンサル5.0」はNRI流の社会課題解決型のコンサルティングのことで、産業・社会の“あるべき姿”の構想力や社会課題の発見力を武器に、官民連携・業界横断で主体的に社会課題解決を目指すアプローチです。これは戦略・業務・実行支援、そしてシンクタンクの機能を持つNRIだからこそ実現できるものです。
──由藤さんが主導した、コンサル5.0(社会課題解決型コンサル)の事例についてお聞かせください。
由藤 1年半前から現在も携わっている地方創生領域のプロジェクトについてご紹介します。山形県の鶴岡市と連携して地域の課題解決に取り組んでいます。地域課題と一言に言ってもいろんなテーマがあり、課題が絡み合っているんです。
例えば鶴岡市の中でも由良地区という人口1,000人規模の海沿いの地域では、住民が買い物をする場所が少なく、人が集まる場所も少ないため、人口減少を背景とする集落維持への課題感が強まっていました。また漁業・観光を振興したいのですが、海岸には大量の海ごみが漂着するため、定期的にごみ拾いをしなければならないといった問題にも直面していました。
そこで、NRIと鶴岡市、由良地区の自治会、株式会社良品計画(無印良品を展開する小売企業)などの主体で連携し、「由良地区に人が集まって何かが生まれ、地域が変わる起点となる場所を作れないか」という検討を始めました。具体的には、地域資源の利用・循環も視点に加えながら、住民の方々とワークショップをしながら地区の未来ビジョンを考えたり、住民の拠り所であるコミュニティセンターの役割を考えたりしています。
──地方創生をはじめとした社会課題の案件ならではの特徴や難しさはありますか?
由藤 地域課題や官民連携の案件は関わる人が多く、意思決定のために相談する場も多いのが特徴です。鶴岡市の案件のメンバー構成は、NRIからはマネージャーと私の2名、鶴岡市や地区の自治会、良品計画様から数名で主要メンバーだけで約十数名が携わっています。
1つの企業の案件ではトップダウンで進めることもありますが、地域課題では住民の方々が主役であるべきなので、地元のことを最もよく知る地区の皆さんから課題意識や意見を引き出し、ボトムアップで推進することを重視しています。最終的には、私たちコンサルタントの手を離れて、課題への取り組みが地域の皆様で推進されていくことが理想なので、“地域内で自走できるモデルであること”も意識しています。
さらには、鶴岡市関連で私たちとは別のテーマで動いているチームもあるので、「こういったケースではどう動きましょうか」「何か他のテーマと噛み合わせられるところがあれば合流しませんか」と適宜相談し合いながら推進しています。このように関係者の多い地域課題・地方創生の取り組みでは、企業様1社のプロジェクトに比べていろんな人と相談・連携する機会がとても多く、調整力や人を巻き込む力が鍛えられます。
福島県での国の実証事業プロジェクト
──雪野さんが担当された、国のプロジェクトについて教えてください。
雪野 福島第1原子力発電所の事故後に、国が除染作業をしているのは皆さんもご存じかと思いますが、除染によって生じた土壌の再生利用に関する実証事業を担当しました。除去した土を最終処分する量を減らすことが国の喫緊の課題であり、放射性物質濃度が低いものについては再生利用をするべく、福島県の飯舘村で実証事業を実施してきました。
この案件は国からの受託事業で、実証事業にはNRIの他にゼネコンや建設コンサルティング会社など、異なる役割のパートナー企業が参加しました。村内の仮置場等に一時保管されている土をトラックで運搬し、再生資材化した上で、農地造成を実施しました。そして、その農地で栽培実験などもおこないました。
NRIの役割は主に3つで、進捗管理、課題管理、情報管理を担いました。私は2週間に一度福島に赴き、関係者30〜40人が集まる会議のファシリテーションや、課題解決に向けた提案・調整などをおこないました。
──関係者が多い、国の一大プロジェクトですが、特に大変だったことはありましたか?
雪野 パートナー企業の皆さんとの調整や連携に最初は苦労しました。というのも、実証事業への参加企業はそれぞれ国から事業を受託しており、NRIとゼネコン企業は契約関係がないにも関わらず、工事のデータ提供などの作業をお願いし、対応していただく必要があるからです。
ゼネコンや建設コンサルの方々も別の業務で忙しく、当初はお願いしてもなかなか動いていただけない状況でした。そこで、関係性を構築するために何度も飯舘村の現場に行き、自分の目で現地の状況を見て直接お話しました。
そうした機会を重ねるうちに、お互いに同じ目線で本音を話せる関係が構築できたのではないかと感じています。NRIが大切にしている「現地現物」という考え方がありますが、このように関係者が多い案件こそ、現地に足を運んで関係者と直接対話することで推進できることを体感しました。
なぜNRIでは社会課題解決に注力できるのか?
──なぜNRIでは、社会課題解決に向けた取り組みに注力できるのでしょうか。
雪野 NRIは日本初の民間シンクタンクという歴史からも、社会の役に立とうとする姿勢や風土が社内に醸成されているからです。そうした風土があるからこそ、「社会を良くしたい」と思っている社員がNRIには多く集まっています。最近では自社や目先の利益を追求するのみならず、サステナビリティや社会貢献が投資家やお客様企業からも求められています。
──そんなNRIだからできる「社会課題解決へのアプローチ」は、どういったものでしょうか?
雪野 まずはコンサルタントだからこそ、社会課題へのアプローチの自由度が高いと言えます。例えば金融機関であれば投資や融資、国であれば制度設計や規制の緩和・強化というようにある程度とれる手段が決まっています。一方でコンサルティングは出口が決まっていないため、お客様や社会にとって何をしたらいいのかを白紙の状態から描くことができるのです。
由藤 鶴岡市の案件ではコンサルティングの報酬はいただいておらず、NRIのR&D(研究開発)の一環としておこなっています。「この地区で導いたプロセスや解決策を日本全国の他地域にも応用してインパクトを与える」という考えのもと、中長期的な目線で活動しているのです。このようなプロジェクトを組成・推進できるのは、「未来や社会を共に創る」ことを理念に掲げるNRIだからこそでしょう。
また、多様なテーマに対応できる点もNRIの強みの一つです。NRIではマルチアサインによって、一人のコンサルタントが複数案件を同時に経験するので、身につけられる専門性の幅が広がりやすいのです。また、社内に700人ほどいる様々な専門家と協力したり、他の企業と連携したりと、複雑に課題が絡み合ったテーマにも自由度高く取り組むことができます。
──コンサル5.0では第一に「産業・社会のあるべき姿を構想する」と伺いましたが、お二人が描く「あるべき姿」、そして今後目指していきたいコンサルタント像はどういったものでしょうか?
由藤 個人的には「共創」がキーワードだと思っています。やはり社会課題的なテーマは、1つの企業や1つの地域だけで解決するのは難しく非効率です。知見や関係者をつなげることで解決策を横展開し、経済的・資源的な循環が効率的に回る仕組みを作りたいと常に考えています。
私自身が共創を体現できるコンサルタントになるために、自分の中で社会のあるべき姿を描き、お客様をサポートしつつ、共に取り組んでいきたいですね。
雪野 民間企業として、そしてNRIとして「ビジネスの意識」を強く持つべきだと思います。コンサルティングは、ともすれば夢物語や実現性の低い構想に終始したり、実証段階で終わってしまったり、補助金頼みで取り組みが継続しなかったりといったことになりがちです。
しかし私たちが関わるのは国や社会全体の課題だからこそ、ビジネスの意識を持ち、人もお金も回っていくような一つの事業として捉え、各プロジェクトの戦略立案や実行、そして連携をして、社会に貢献していきたいと思います。